「蒔絵」とは漆器の表面に漆で絵や文様、文字などを描きそれが乾かないうちに金や銀
などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる日本独自に発展した技法のことです。
漆黒に浮かび上がる金の色が美しい景色を織りなす蒔絵の作品たち。
その技法は奈良時代にはすでに完成されていたといいます。
それでは蒔絵の世界をちょっとだけご紹介致します。
暮らしの中にあった蒔絵
現代の私たちの生活であまり馴染みがない蒔絵。
かつてはお椀、お重箱、机、硯箱、文箱など生活道具の中に蒔絵は施されていました。
その図柄は名勝や物語を主題としたものから雀や魚など身近な生き物を描いたもの、
十二カ月分の四季の草花をあしらい季節を表現したものなど実に様々にあります。
ほかにも武家や貴族の婚礼の際に嫁入り道具に両家の家紋を蒔絵でいれるなんて
こともありました。
道具に閉じこめた贅沢
蒔絵の作品を見ていると盆栽や枯山水などに見られる日本人特有の感性を感じます。
吸い物椀の蓋裏にこっそり施された四季の花。
御膳の隅にはピチピチと生きの良さを感じさせる魚や海老。
硯箱にはそっと寄り添う日本三景宮島の鹿。
普段使いの道具に閉じこめた景色や生き物たち。
目に入るたびに使う人の気持ちを楽しませてくれたのではないでしょうか。
当時の人々が作ったミニチュアリズムの世界、ぜひお楽しみください。
1.2.3.4.5. 明治時代輪島塗魚金蒔絵四方膳十客懐石道具より 伊勢海老・鯛・鯉・鮎並・カンパチと鮃
6 明治時代筑紫雀牡丹金蒔絵蓋椀十客懐石茶道具より つくしと雀
7 明治時代大黒鼠図金蒔絵四方盆茶道具より ねずみ
8 江戸時代木地馬文金蒔絵茶箱茶道具揃より 駆け抜ける馬
9『松下壬映』作春の日蒔絵香合共箱春茶道具より 蝶
10 明治時代豪華総梨地日本三景宮島図硯箱文房書道具より 鹿
written by Shinkai /Design and photos by Igarashi |